バイデン「イスラエルに武器を提供しない」発言に逆風――イスラエルの怒り、議会は弾劾へ

バイデン&ネタニヤフ/The White House, Public domain, via Wikimedia Commons

バイデンのイスラエル発言が波紋

バイデン大統領がイスラエルへ「武器を提供しない」と発言したことで波紋が広がっています。

バイデン大統領は5月8日にCNNのインタビューで、イスラエル軍がラファで地上攻撃を開始した場合、「武器や砲弾を供給するつもりはない」と述べました。

「もし彼らがラファに入れば、ラファや都市に対処するために歴史的に使用されてきた、その問題に対処するための武器は提供しない、と私は明言した」

これまでイスラエルを支持してきたバイデン政権ですが、この手のひら返しは何を意味するのか。

もしかして今全米で巻き起こっている大学のキャンパスデモをはじめとする親パレスチナ派の抗議活動に影響されているのか。

https://edition.cnn.com/2024/05/08/politics/joe-biden-interview-cnntv/index.html

ネタニヤフ首相「単独で戦う」

バイデン政権はこれまで何度もイスラエルのベンジャミン・ネタニヤフ首相と電話で会談を続け、ラファへの侵攻を考え直すよう促してきたという。

しかしそれでもイスラエルはラファ侵攻へと向かっているようにみえ、結局バイデン氏は自分の警告が聞き入れられていないと判断し、このような発言に至ったと報じられています。

イスラエルにとってこうなることは「わかっていたはずだ」とホワイトハウスのジョン・カービー報道官は述べた。「大統領とそのチームは、ラファでの大規模な地上作戦を支持しないことを数週間前から明確にしている。そのことを繰り返し、率直に伝えてきた」

しかしイスラエル側にとってバイデン氏の発言は衝撃だったという。イスラエル国民は最大の同盟国に「裏切られた」と感じていると言われています。

ネタニヤフ首相は9日、「単独で戦う必要があれば、単独で戦う。必要であれば、われわれは爪に火をともす覚悟で戦う。しかし我々には爪よりもはるかに多くのものがある。その精神の強さ、神の助けによって、我々は共に勝利するのだ。」とその決意を述べました。

https://edition.cnn.com/2024/05/09/politics/inside-bidens-public-ultimatum/index.html

イスラエルがここまで強行な態度を示している理由に、ラファにはハマスの指導者ヤヒヤ・シンワールが立て籠もっているといわれており、さらにアメリカ人を含む人質が多く拘束されていると言われているからだとか。

イスラエルにしてみれば、そこに突入する理由があるのです。

https://www.foxnews.com/world/many-israelis-feel-betrayed-following-biden-threat-withhold-arms-defeat-hamas-rafah

大口献金者が非難

今回のバイデン氏の発言について、著名な大口献金者が非難しました。

民主党の大口献金者でありイスラエル系アメリカ人のハイム・サバン氏はホワイトハウス高官にメールを送り、バイデン氏の決定を非難したという。

サバン氏はメディア経営、投資家、プロデューサーなど幅広い活動をしてきた人物で、親ユダヤ、親イスラエルの活動を長年にわたって支援してきたとのこと。

以前は共和党にも献金していたようですが、近年は民主党に寄付しており、2月にはロサンゼルスの自宅でバイデン再選のための資金集めパーティーを主催しています。

サバン氏がホワイトハウスに送ったメールによると、「悪い、悪い、悪い決断だ、考え直せ」と書かれています。

またイスラエル支援団体「Democratic Majority for Israel」の代表兼CEOであるマーク・メルマン氏は、「ジョー・バイデンほど親イスラエルの大統領はいなかったが、同時に米国の政策が大きく転換したように見えることを非常に懸念している」と語っています。

そのほか親イスラエルのコミュニティには心配・動揺・激怒が起こっていると伝えられています。

https://www.axios.com/2024/05/10/israel-gaza-biden-rafah-donors

バイデンの弾劾訴追が提起

さらにバイデン大統領が「イスラエルへの兵器を提供しない」と述べたことは「圧力だ」として、弾劾訴追が提出されました。

共和党のコーリー・ミルズ下院議員(フロリダ州選出)は10日、イスラエルへの軍事援助を差し控えることで国家安全保障を危うくしたとして、ジョー・バイデン大統領に対する弾劾訴追を正式に提出しています。

「今、ジョー・バイデンは、中東における最大の同盟国であるイスラエルに対し、ハマスとのすべての活動を停止しなければ、すでに下院で承認されている資金提供を一時停止することで圧力をかけている。これは非常に明確なメッセージだ。」

これは以前民主党がトランプ大統領に対して行ったことのブーメランになります。

トランプ大統領はウクライナのぜレンスキー大統領に、「ハンター・バイデンとブリスマの汚職について調査せよ、でなければ援助を差し控える」と交渉した。民主党はこれが「職権乱用だ、圧力だ」として弾劾裁判に持ち込んだ経緯があります。

ミルズ議員はこれをそっくりそのままマネしてやり返した。

バイデンに対するブーメラン

ミルズ議員がXに投稿した弾劾起草文で、黄色くマーキングされた部分は、以前民主党がトランプ大統領を弾劾した時の文章をそっくりそのままコピペしています。

イスラエルへの武器提供は、すでに議会が予算を承認しバイデン自身が署名しているものですが、バイデン氏はそれを覆して「提供しない」とラファ侵攻に対する警告としてちらつかせた。

過去にもバイデン氏は、ブリスマの件でウクライナの検事長を解任しなければ、資金援助を差し止めるとウクライナ政府を脅しており、つまりウクライナでやったのと同じことを、今度はイスラエルに対してやろうとしています。

国連、パレスチナを承認

そんな中、国連総会がパレスチナを「加盟資格のある国」と認める決議案を採択しました。

5月10日に国連総会は、パレスチナに新たな「権利と特権」を与えることを143対9(棄権25)で承認し、安全保障理事会に対してパレスチナの194番目の国連加盟国入りを再考するよう求めています。

今のところパレスチナは非加盟オブザーバー国のままですが、今回の決議案はパレスチナが加盟国に「ふさわしい」と決定するものです。

https://apnews.com/article/un-resolution-palestinians-membership-rights-us-assembly-875560e897f27d6600090420f36404e4

これに対してイスラエルは激怒しており、国連総会でイスラエル国連大使は国連憲章をシュレッダーで切り刻んで「恥を知れ」と抗議した。

これによりイスラエルの怒りにさらに火が付き、攻撃がエスカレートするのか。

アメリカの大統領で世界が変わる

米国内ではパレスチナ支持者の抗議が広がっており(左翼の陰謀だとしても)、いずれにしてもバイデン政権の”コントロール力のなさ”が世界を混沌とさせている。

ロシアはウクライナ東部を制圧しつつあり、アフリカの国では米軍が追い出され始めていることで、中国とロシアの影響力が強まっているもよう。

そうかと思えば南シナ海の領有権をめぐって中国とフィリピンの対立が深まっている。中国は台湾も視野に入れている。

日本の海上自衛隊の護衛艦「いずも」がドローンで盗撮され、中国のSNSに投稿された。誰の仕業かわからないが日本の安全保障が脅かされている。

アメリカ大統領に誰がなるかで、こうも世界がガラッと変わってしまう。


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