中絶の権利を認めた「ロー対ウェイド」判決を米最高裁が覆す?保守派判事の意見書がリーク――これを日本人が論じるのは難しい

最高裁が「ロー対ウェイド」判決を覆す?判事の意見書がリーク

1973年に米最高裁判所で判決が下った、女性の人工中絶を選ぶ権利を争った裁判=通称「ロー対ウェイド裁判」を、今の最高裁が覆そうとしていると騒ぎになっています。

これは保守派のサミュエル・アリート判事が書いた意見書の草案がリークされたことから発覚したもので、アリート判事はこの意見書の中で、ロー対ウェイド裁判は「最初からひどく間違えていた」と主張しており、「判決を覆すべき」と述べているという。

このような最高裁の意見書が事前に漏れるのは極めて異例だと言い、リークしたのは中絶を支持する左派判事ではないかと言われています。

これからはリークが多くなると何度も言ってきましたが、この件もリークですね。

現在最高裁判所前には抗議者達が続々と集まっているといい、バリケードが張られています。

ロー対ウェイド裁判とは

ロー対ウェイド裁判は、女性が人工中絶を選択する権利を認めた米国最高裁初の判例となりました。

「ロー」は原告の個人情報を隠すために用いられた仮名「ジェーン・ロー」からきており、「ウェイド」は被告のテキサス州ダラスの地方検事ヘンリー・ウェイド氏のことです。

原告の本名はノーマ・マコービー氏といい、未婚で妊娠したことにより人工中絶を受けましたが、これがテキサス州法に反しているとして執刀した医師などが逮捕されました。

これに対してテキサス州法が合衆国憲法に違反しているとして提訴しています。

多神教と一神教の違い

個人的には、この問題を人工中絶が普通に認められている日本人が論じるのは非常に難しいと思っています。というのも、これにはキリスト教の思想が根底にあるからです。

我々日本人は(一部を除き)、元日は神社に初詣をし、お寺で先祖をお参りし、クリスマスパーティーを祝い、バレンタインはチョコレートを贈り、最近ではハロウィンで仮装に興じるという、ご都合主義というかいいとこ取りの国民性です。結婚は神前も仏前も教会も選べます。

その点でイスラム教、キリスト教、ユダヤ教など一神教の民族性とは根本的に違いがあると思います。一神教では神は唯一絶対的な存在であり、お寺にも神社にも手を合わせることのできる日本とは歴史も文化も国民性も異なるのです。

ただキリスト教の中でも、宗派によって若干ニュアンスが異なるようです。基本的に中絶禁止は変わらないですが、リベラル寄りのメインライン・プロテスタントと呼ばれる宗派は、肯定はしないものの個人を優先するという立場を取っているもよう。

また米国は移民が多い国であり、それも世論が分裂する要因になっているようです。

保守派優勢か

けっきょくロー対ウェイド裁判は、1973年1月22日に7-2でテキサス州法が違憲であるとの判決が出ました。女性の権利が認められたのです。

今回もしこの判決が覆れば、中絶を禁止するかどうかを決める権限は各州に委ねられることになるようです。予想によれば26の州が中絶を禁止する可能性が高いと言われています。

報道によると最高裁判事の中で、共和党大統領によって指名されたクラレンス・トーマス判事、ニール・ゴーサッチ判事、ブレット・カバノー判事、エイミー・コニー・バレット判事がアリート判事の意見に賛成しているとのこと。

リークされたアリート判事の意見書が本物であるかはまだわからないようですが、もし本物だと証明されれば、判決を覆す動きは6月下旬~7月上旬に提出されるとみられています。

キリスト教「中絶は人殺し」

日本では望まない妊娠をした場合、中絶という選択肢があるわけで、我々はそれが普通だと思っています。だからこのアリート判事の考えはおかしいんじゃないか?女性の権利はあって当然だろ、アメリカは自由だと言ってるくせに変な国だ、という人は少なからずいると思います。

しかしキリスト教の場合、中絶は「人殺し」だという考え方であり、むしろこれから生まれてくる子供の生きる権利を親が自分勝手に奪っている、という事になるかと思います。その根底には「新たな命は神が授けてくれたもの」というのがあるのでしょう。

そこが根本的に日本の文化と異なります。

まあ言ってみれば、納豆を食わない国では納豆は腐ったものだから食べるものではないとするのに対し、日本人は子供の頃から納豆は健康に良いものだと教えられているから食べるのは当たり前、みたいな。ちょっと例がふさわしくないかもしれないけど笑。

なので、良いとか悪いとかを軽々しく論じることは難しいと思うのです。

ともかく、今後の展開をみていきたいと思います。


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