エプスタイン・スキーム
日本では「パフ・ダディ」として知られる”ディディ”こと音楽界の大物ショーン・コムズ氏がレイプや性的人身売買などの疑いで国土安全保障捜査局(HSI)の家宅捜索を受けた件で、メディアは連日報道合戦を繰り広げております。
なぜなら、あの性犯罪者エプスタイン方式のような「スキーム化」された手口を使って、彼のスタッフや音楽会社の幹部らが関わった大がかりな違法行為を行っていたと告発されているからです。
さらにそれにヘンリー王子、ジャスティン・ビーバー、アッシャー、俳優キューバ・グッディング・ジュニアなどの名前がズルズルと出てきたもんだから大騒ぎになっている。さてどうなるんでしょう。
とまあ、こんなところにもあのエプスタインの名前が出てくるわけですが、それほど彼のやったことは歴史に刻まれるものであることは間違いない。
今年初めにロレッタ・プレスカ判事が、ジェフリー・エプスタインの法廷文書を次々と公開したことで話題になり、当ブログでも連日取り上げてきました。↓
フロリダ州がエプスタイン大陪審文書を公開へ
最近は一時に比べてエプスタイン騒ぎも沈静化していますが、その後もちょくちょく関連の話題は出ており、あらためてエプスタイン事件の大きさを物語るものとなっている。
例えばエプスタインの右腕として少女集めに加担したとして、禁固20年の有罪判決を受けたギレーヌ・マックスウェルは現在フロリダ州の刑務所に収監されていますが、先ごろ彼女の弁護団は有罪判決を破棄するよう要請したと報じられた。
またエプスタインの被害者12人のグループが、捜査を怠っていたとしてFBIを提訴しています。
別の訴訟では、エプスタインがニューヨークの自宅にゲストを監視する部屋を設け、それを口止めのために使ったとして複数の被害者が訴えています。
さらに最近ではフロリダ州のロン・デサンティス州知事が、エプスタインの2006年の大陪審文書の公開を認める法案に署名すると発表しました。「ジェフリー・エプスタインの犯罪行為に関連するファイルはすべて公開されるべきだ」と述べています。
この時の裁判は、あのアレクサンダー・アコスタ検事が大甘な司法取引をしたことで有名です。
ともあれこの法案は7月1日に施行されるという。また何か新たな事が明らかになるのか、楽しみです。
島を訪れた人の位置情報が収集されていた
もしかしたらエプスタインの少女性的人身売買に関わったVIPやエリートたちは、彼が刑務所内で死亡したことで「死人に口なし」と安心していたかもしれない。
しかしこのフロリダ州の法案が可決したことで、そうとは言っていられない可能性がある。
さらにこのたび、その不安を増幅させるかもしれない情報がもたらされた。
WIREDは、「エプスタイン島」を訪問した人のGPSデータを入手したという。
かつてエプスタインとその仲間が、少女たちを集めて性的虐待に興じていたという「ロリコン島」と呼ばれた島。
そのエプスタインが所有していた米領ヴァージン諸島にあるリトル・セント・ジェームス島を訪れていた人たちの携帯電話のGPSデータが、データブローカーによって収集されたという。
なるほどその手があったか!と思った人はいるでしょう。
これにより、個人を特定することが可能なのか。
ピンポイントで位置を特定、行動を追跡
エプスタインが獄中死する以前の数年間、エプスタイン島を訪れていた人たちの携帯端末約200台のGPSデータが、あるデータブローカーによって収集されていたという。
このデータブローカー会社「ニア・インテリジェンス」は、2012年にシンガポールで設立されたれっきとしたナスダック上場企業で、特許取得済みテクノロジーにより、44カ国以上、7,000万箇所に及ぶ個人情報約16億人に関する分析を提供していたという。
しかし2023年12月にデラウェア州連邦破産裁判所にチャプターイレブン(連邦破産法第11条)の手続きを行っています。
ニア・インテリジェンスが収集し、オンラインで公開した座標は、それこそ数センチのレベルでピンポイントで位置を特定するものだったという。
例えばエプスタイン島の隣にあるセント・トーマス島のホテル「リッツ・カールトン」や、豪華クルーザーやメガヨットが停泊しているアメリカン・ヨット・ハーバーの特定のドックまで、訪問者の移動が追跡されているものだとか。
これらの位置情報データは、エプスタイン島への移動の動きをピンポイントで特定し、島までの正確なルートを明らかにしているという。
データはエプスタイン島に滞在していた数多くの人々の動きをとらえているとのことで、エプスタインが最終的に逮捕された2019年7月6日に終了した。
WIREDはその座標を入手したという。
Jeffrey Epstein's Island Visitors Exposed by Data Broker https://t.co/KlIHkXFhln
— WIRED Science (@WIREDScience) March 28, 2024
https://www.wired.com/story/jeffrey-epstein-island-visitors-data-broker-leak/
VIPが住んでいた場所や、被害者の住所も
WIREDが入手した11,279の座標は、エプスタイン島内だけでなく、島を訪れた人が住んでいる地元の住所、その人の勤務地などを示すアメリカ国内の166カ所を特定しているという。その中にはウクライナ、ケイマン諸島、オーストラリアなどの都市もある。
また訪問者は、フロリダ、マサチューセッツ、テキサス、ミシガン、ニューヨークを筆頭に、アメリカの80の都市からエプスタイン島を訪れていたという。
さらにエプスタイン島以外にも、エプスタインが所有していたニューメキシコ州の牧場や、フロリダ州パームビーチにあるエプスタイン邸など、エプスタインが持っていたさまざまな不動産の座標も含まれているとのこと。
おそらくVIPが住んでいたと思われる数百万ドルするような高級住宅街や、逆に被害者の少女たちが住んでいたと思われる低所得者層の街を示すものもあったという。
そのからくりはこういう手法により取得された。↓
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広告主はこのデータを利用することができるが、ニア・インテリジェンスのような企業はこのデータを吸い上げ、再パッケージし、分析し、販売する。
ニア・インテリジェンスはすでに破産
なぜニア・インテリジェンスは破産法を適用したのか。
この会社が収集したデータは、ロンダリングを経て米軍に提供されていたと告発され、マーケティングとはまったく関係のない政府の大量監視などの他の用途を可能にしていると批判された。
これによりニア・インテリジェンスによるデータ利用が、取引所の利用規約に違反しているとして、複数の契約が解除されたと報じられた。
そのためニア・インテリジェンスは、ナスダックに上場して1年も経たない2023年12月に破産保護を申請し、約1億ドルの負債を計上したという。
さらに第三者委員会の調査により、同社の複数の幹部が数年にわたって隠蔽工作を行い、数千万ドルを騙し取ったと報告された。
現在はAzira(アジラ)と呼ばれる新組織に生まれ変わり、静かに業務を再開しているとのことです。
意図的にデータ収集したことを認める
アジラの代表であるキャスリーン・ウェイルズ氏はWIREDに対して、ニア・インテリジェンスがエプスタイン島のデータを意図的に収集したことを認めたという。
ただウェイルズ氏は、データがどのように収集されたのか、どの顧客がエプスタインの島のレポートを作成したのか、どのような目的で作成されたのかについては回答を拒否したようです。
エプスタイン被害者の代理人を務めたリサ・ブルーム弁護士は、この位置情報データを使って好きなことが出来てしまうと憂慮していると述べています。例えば個人を特定して脅迫することもできるかもしれない。
ただ位置情報だけで逮捕されることはないでしょうし、このデータがどのように利用されるのか、されないのかは今のところわかりませんが。
詳しくは→こちら