米国の国境危機――マヨルカスDHS長官が弾劾へ、バイデン政権内に勃発した内紛

ジョー・バイデン&アレハンドロ・マヨルカス/U.S. Department of Homeland Security (DHS), Public domain, via Wikimedia Commons

マヨルカスDHS長官が弾劾へ

2月13日、米議会の下院でアレハンドロ・マヨルカス国土安全保障省(DHS)長官の弾劾が214対213で決定しました。

国土の安全=つまり国境問題はDHSの管轄です。マヨルカス長官は国境問題の管理に関する2つの訴因で弾劾されました。

・故意かつ組織的な法令順守の拒否
・社会的信頼の侵害

マヨルカス長官の弾劾は先週も採決されましたが、215対215の同数で否決されていました。

なぜ一度否決されたものが、すぐにもう一度採決に持ち込めたのか――これはあえて同数にすることで再考動議を提出することができ、再び決議するための共和党の作戦でした。

その作戦は見事成功し、下院議会はマヨルカスDHS長官の弾劾訴追へ進むことになった。閣僚の弾劾は1876年のウィリアム・ベルナップ陸軍長官以来2人目だそう。

マイク・ジョンソン下院議長は「マヨルカスは、これまでのどの官房長官よりも国に損害を与えた」と非難しました。

ただマヨルカス長官が弾劾で有罪判決を受けて罷免される可能性は低いと思われる。

・上院で棄却される可能性がある
・告発に対する異議申し立てを行う可能性もある
・採決に持ち込まれたとしても3分の2を獲得するのは厳しい

などの理由からおもらく否決されるのでは。しかし弾劾訴追されたという事実の持つ意味は大きい。

テキサス対バイデン政権

先ごろテキサス州が最高裁の判決を無視し、国境に有刺鉄線を設置すること強行に推し進めたことにより、この問題はにわかに脚光を浴びました。

25州がそれに賛同し、一部の州は州兵をテキサス国境に派遣して警備の支援をしました。

【アメリカ分裂】不法移民問題でテキサス州とバイデン政権が対立、25州がテキサスに賛同――今わかっていること

2024年1月27日

そんな中で今回のマヨルカス長官の弾劾採決は行われました。

バイデン大統領は就任初日にトランプ政権の国境政策を撤廃する大統領令を発し、以来国境には中南米から不法移民が押し寄せた。

連邦政府の文書によると、2022年度中に南部国境で220万人以上の不法移民に遭遇し、2023年度中には200万人以上の不法移民に遭遇しているとのこと。

おそらくバイデン政権の狙いは不法移民に選挙権を与えて、民主党に投票させることだと推測されます。これはイーロン・マスク氏も主張している。

中国からの不法移民が急増

しかし不法に入国しているのは今や中南米ばかりではない。1968年から続くCBSの老舗番組『60 Minutes』は、中国からの不法移民が急増していると報じました。

米国税関国境警備局は昨年、不法に国境を越えた中国人3万7000人が逮捕されたと報告した。

中国からの移民は40日もかけて、タイ→モロッコ→エクアドル→コロンビア→パナマ→コスタリカ→ニカラグアを経由してアメリカ国境を目指すという。

こうした中国不法移民の多くは、中国の抑圧的な政治情勢と低迷する経済から逃れてくるというが、その中に中国共産党のスパイや工作員が混じっていないと言い切れるのか。

また複数の元FBI高官が、不法移民によってテロの脅威が差し迫っていると警告した。中国だけでなく、アメリカに敵対する国からも入国している可能性は十分にあります。

バイデン政権内の内紛

Axiosによると、国境問題はバイデン政権内でも内紛があるという。

この問題は今やバイデン再選を脅かす危機として無視できないものになっている。

記事によれば、この危機の多くはバイデンのチームがほとんどコントロールできなかった要因に根ざしているという。

過去に前例のない人数の移民が押し寄せ、それに対して何ら効果的な対策を持たなかったことで、内紛、責任転嫁、優柔不断が起こったと報じている。

ある元政府高官は「解決策のないこの恐ろしい問題の責任者になりたくないという思いは確実にある」と語ったという。「大統領にブリーフィングする立場になれば、毎日大統領を怒らせることになる」

1月、南部国境の視察に向かったバイデン大統領は、会議で怒りを露わにしたという。補佐官たちが移民のデータを用意していなかったのが理由です。

また国境問題の会議では、リーダーではなく副官が出席しているという。つまり責任を被りたくないのでしょう。

カマラ・ハリス副大統領

バイデン大統領は就任直後の2021年3月24日に、カマラ・ハリス副大統領を移民問題の責任者に任命しました。

ハリスチームの調査は、メキシコと北トライアングル(グアテマラ、ホンジュラス、エルサルバドル)に終始し、移民がよりグローバルになるにつれてもそのままだったという。

バイデン政権の元高官によれば「彼女はよく言えば無能で、悪く言えば散発的にしか関与せず、自分の責任だとは思っていない。彼女にとってはチャンスなのに、その穴を埋められなかった」と語っています。

ジェイク・サリバン国家安全保障顧問

ジェイク・サリバン国家安全保障顧問は、国境問題を顧問のエリザベス・シャーウッド=ランドール氏に任せたという。

しかしシャーウッド=ランドール氏は明らかに経験不足だったとのこと。

彼女は同僚達に好かれているものの、間違った役割に就いていると考える者もいるのだとか。

アレハンドロ・マヨルカス国土安全保障省長官

国土安全保障省(DHS)は、バイデン就任の初日に100日間の移民強制送還モラトリアム(一時停止)を発表しました。

このたび弾劾に直面しているマヨルカスDHS長官は、当時モラトリアムに反対すると語っていたという。

スーザン・ライス国内政策顧問

クリントン政権で国務次官補、オバマ政権で大統領補佐官を務めたスーザン・ライス氏は、バイデンの国内政策顧問として国境に対する政権のアプローチの中心的な調整役として登場した。

一部の政府関係者は、彼女が必要以上に闘争的であると感じ、政策的に同意しなかったとのこと。

ライス氏は保健福祉省(HHS)のグザビエ・ベセラ長官には深い反感があったといい、複数の情報筋によればライス氏はベセラ氏のことを「ビッチ・アス」と呼び、プライベートでは「idiot(間抜け)」と呼んでいたという。

またライス氏は シャーウッド=ランドール氏とも何度も衝突し、ハリス副大統領とも緊張関係にあったと関係者は語っている。

そもそもライス氏とハリス氏の緊張関係は、両者とも副大統領候補として審査を受けていた2020年夏に端を発していたという。ライス氏は後に「自分を否定的に報道する結果となった反対派調査の責任の一端はハリスと彼女のチームにあると思う」と周囲に語っていたとか。

そしてライス氏はハリス副大統領よりも国境に詳しいという自負を持っているように周囲には見えていたという。

最初から支離滅裂だった

ホワイトハウスの移民チームは入れ替わりが激しく、その結果「戦略は最初から支離滅裂だった」と元ホワイトハウス高官は語りました。

それによると、一部の政府関係者は、不法移民を罰したり抑止したりするための政策を望んでいたといい、また一方では移民のための合法的な道を拡大しようとする者もいたりして、統制が取れていなかったという。

こうした内部の混乱が、バイデン政権のチームによる矛盾した行動につながったとのこと。

ジョー・バイデン氏は、トランプ政権が移民に課した厳しい制限を廃止することを約束して当選しました。しかしそれが悪い方向に向き、人道的・政治的危機に陥ることになった。

かつて左翼の移民擁護団体はトランプ政権の国境政策を批判し、バイデンに望みを託した。

しかし国境危機が悪化するにつれ、バイデン政権がトランプ政権時代の移民規制を使用するようになったため、移民擁護団体との関係は悪化した。

一方保守派は国境の混乱を問題視し、バイデン政権に圧力をかけている。

ラスムッセンの世論調査によると、アメリカ国民の74%が国境情勢を「危機的だ」と答えているという。

そして54%が「トランプの国境の壁は正しい」と回答した。

私は以前このブログで「左派はぶっ壊すのは得意だが、その後の管理・運営には適性がない」と書いたことがあります。今この問題は、まさにそれを示してはいないか。

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